No.33「サラバ」
「サラバ」2014年、西加奈子著、を読みました。
西加奈子さんは、誕生から2歳までイラン・テヘラン、小学1年から5年までエジプト・カイロ、それ以降は大阪で育ちました。海外にいた頃は毎日のように自宅でパーティーが開催されたり、路地の屋台に丸ごと吊るしてある鶏や、路地裏に捨てられた悪臭を放つゴミの山など日本ではありえない、様々な光景と出会ったそうです。
このような生い立ちから養われたのか、感受性が非常に豊かです。
エッセイの「この話続けてもいいですか」にて、花屋の花を取る、みすぼらしいおばあちゃんに感動した話を読んだ時には、驚嘆しました。
加えて目の前に起きている現象だけでなく、その裏を見透かしてしまうほどの鋭い洞察力があります。
サラバを読んでいると、西加奈子さんの感受性と鋭い洞察力を感じずにはいられません。
自分の感情に素直に読めばこの本から何かを感じることができると思います。
胡散臭いレビューですが、(笑)一度は読んでみても損はないかと。
きっとあなたも西加奈子の世界観に見せられるはず。
No. 32「物欲のない世界」
No. 32「物欲のない世界」
物欲のない世界、菅村正信を読みました。
世界の消費の動向となぜそのような消費動向になっているのかを経済的要因から説明している本です。
最近は消費に意味を持たせる傾向にあるそうです。ものを持たない生活、人とのつながりを大切など、自分の価値観と一致するものに人はお金を使います。この傾向は若者だけでなく、大人、老人にも共通した傾向であるそう。
中でも人気なのはアメリカのポートランドのようライフスタイル。朝には地元のコーヒーショップに行き、昼間仕事をした後には仲間と海でサーフィンをする。
週末は家族との団欒の時間。
仲間や家族など人とのつながりを大切にする傾向がこの間れているようです。果たしてそれはなぜなのか。
それ世界的な不況の中、給料が低くなってきているからでしょう。とくに若者の貧困化は先進国に共通の問題です。
そんな若者が自分の持つものの価値を自分なりに定義し、価値を再発見していくことは生産的な行動でしょう。
そしてこの傾向は大人や老人にも見られるそう。
この本を読んで自分の中に評価基準を持つってことは本当に大事だなぁ。と思った次第です。
好きな人、好きな景色、好きな服、好きな食べ物、好きな場所。
楽しくないといい生活とは言えないと思うので。
No.31「自由からの逃走」
自由からの逃走を読みました。1941年出版、エーリッヒフロムが書きました。
この本は現代における、自由について取り扱っています。誰もが自由に仕事を選べるようになった時代において、仕事に紐付いていた階級意識がなくなり、人は自由を目指せるようになったとともに、自分の居場所を失いました。そこで人は孤独を癒すために他者とのつながりを求め、社会的要請に従うようになります。
この状態をエーリッヒフロムは「消極的な自由」と主張します。
(彼が考える自由の定義の幅広さに驚かずには入られませんでした。。。)
一方、現代は自分の目標を見つけ、その実現のために努力できるようになった時代でもあります。このように自ら行動していく状態を「積極的な自由」と主張しています。
個人の感情が社会情勢に対してどのような影響を与えるのかがテーマですが、緻密な個人の行動分析の中で自由とは何か、自分の生き方についても考えさせられます。
ボリュームは337ページ、内容も複雑で読むのに時間はかかるかもしれませんが、読んで後悔はしない本です。おすすめ。
No.30「プラトン 哲学者とは何か」
プラトン 哲学者とは何かを読みました。
納富信留氏が2002年に書いた本です。
内容は哲学とは何かを問うものです。
プラトンが「ソクラテスと弟子たちの対話」を通してソクラテスという謎に出会い、哲学が生まれたとしています。
ソクラテスという謎とはなぜ、人々を反駁しようとしたのかです。
この頃ソクラテスは知者と呼ばれる人に会っては対話を繰り返し、勇気や徳といった概念について議論を交わしました。
このような行動を取った理由は神に最も知性があるものと言われたからです。しかしソクラテスは自分には知性がないと思っており、知者との対話によって自分が無知であることを神に示そうと考えました。
しかし。。。。。。
ソクラテスは対話する知者を次々を論破してしまう。
例えばクリティアスという当時、の大統領のような人がいました。彼の徳んたいする考え方はプラトンをはじめ多くの人が評価されていました。
つまり、徳について最も多くの人の考えを代弁している人であり、一般的に徳を知る者として捉えられていたのです。
しかし。。。
ソクラテスの「思慮深さとは何か」という問いに対してクリティアスはソクラテスが納得する回答をできませんでした。むしろ彼は対話によって自身の思慮深さに対する矛盾を暴きだされてしまいました。
クリティアスは自分が間違っているという事実を受け止められず、徳への考えを見直しませんでした。その結果、アテナイは衰退の道をたどります。
実はクリティアスの師匠であったソクラテスは政治を腐敗させた責任があるとされ、裁判にかけられ、死刑を宣告されてしまいます。
彼は裁判中、「アテナイの人にとって意味のあることをしているのだから自分は特別の待遇を受ける権利がある」と主張します。
しかしアテナイの人にとっては彼のしてきたことのどこがアテナイの人のためになっているのかがわかりませんでした。
彼は狂ったやつなのではないかとみられ(実際に奇行ととられる行動を取ったことがあった)、プラトンも当時はそんなことを言うのをやめるように説得したそうです。
しかしソクラテスにとっては「アテナイの人にとって価値のあることをしているのになんで辞めなければいけないのだ」という思いがあったのでしょう。そしてこの思いに弟子たちとの対話を文字に書き起こすことでプラトンは気がつきました。
そこで哲学とはよりよく生きるために、自分の知らないことがあることを認め、自分の行動、言動を吟味することがであるというプラトンの哲学の解釈が生まれたのです。
ソクラテスの思いが通じた瞬間でした。信念を持ち、貫き通すことの尊さに気づくことができました。
No.29「ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の法則」
ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の法則を読みました。ジェームズ・C・コリンズによって1995年に書かれました。
この本は「業界を牽引し、長期にわたって利益を出し続けている企業は他の企業とは何が違うのか」という問いから生まれました。この問いに答えるために、経営者から尊敬されており、かつ業界のトップに立つ会社を業界毎に12社リストアップしビジョナリーカンパニーーと名付け、二番手の会社と比較しました。スタンフォード大学を卒業し、経営コンサルタントとして働きながらドラッカーの教え子でもある、著者が企業経緯から経営理念、人事制度、財務状況、商品力、市場環境など多岐にわたる項目を24社分調査した結果が402ページにまとめられています。経営のバイブル書として多くの人に読まれているのも当然でしょう。
ビジョナーリーカンパニーになるために、経営者が心に留めておくべき四つのポイントです。
一、時を告げる預言者になるな。時計を作る設計者になれ。
二、「ANDの才能」を重視しよう
三、基本理念を重視しよう
四、一貫性を追求しよう
一つ目の意味は自分で事業を進めるだけでなく、自分がいなくなっても経営者がいなくなっても経営がうまくいくように心掛けよ、です。100年、200年も人間は生きていけません。いつまでも自分が時間を告げることはできないのです。そのためにいつでも事業を導いてくれる、つまり時を告げる時計を作る必要があります。
二つ目の意味は「二兎を追って二兎を得よ」ということです。企業理念と利益は相反するものでなく、両立できるものです。企業理念がいかなるものであってもそれを強く信じているのであれば、利益も同時に追求できるはずです。
三つ目はビジョナリーカンパニーの根幹となる部分であり、絶対に変わらないものです。これを決める際には「たとえ利益にならなくても、この企業理念に従って経営を行っていきたいか」を問うといいそうです。そしてこれを全社員に浸透させ、人事制度、商品開発、営業、マーケティングからオフィスのレイアウトから社員の一挙手一投足に至るまでありとあらゆるところに反映されるようにしなければなりません。
四つ目は企業活動を行っていく際の注意点です。必ず、企業理念にあった方針を取らなければいけません。さもなければ社員は「こんなのでまかせではないか」と企業理念を疑うようになります。
確固たる企業理念を定め、それにあった経営を行い、後継者を選び、常に企業理念と利益の両方の実現に没頭する集団を作る。これは経営者だけでなく、マネジメントにも有効です。「何を実現したいのか」、「そのために何をするのか」、「常に危機感を生み出す制度はあるか」、「社員がアイディアを試す場所はあるか」、「制度は企業理念から外れていないか」、といったことに注意し、労働環境を整えていくことで活気のあるチーム作りができるはずです。また個々人を会社に見立てれば、人にも上記の四つのルールを当てはめることができるはずです。
No.28「チーズはどこへ消えた」
チーズはどこへ消えた( Who moved my cheese?)、スペンサージョンソン著、門田美鈴訳を読みました。
この本の著者である、スペンサージョンソンさんは、医学博士であると同時に、心理学者でありながら、大学や研究機関の顧問を務め、シンクタンクに参加しています。その功績を認められハーバードビジネススクールの名誉会員になりました。
恐怖を捨て新しいことにチャレンジする大切さについて書かれています。
- あらすじ
物語はネズミ二匹と人間二人がチーズを見つけたところから始まります。チーズはだんだんとカビていきますが、膨大な量のチーズであったために、油断していた人間二人はチーズが腐っていくことに気がつきません。ネズミたちはチーズが腐りかけていることに気がつき、違うチーズを探しにいきますが、人間たちはチーズが腐っていることに気がつかず、ついにチーズはなくなります。
人間二人は絶望し、チーズがなくなった原因探しを始めます。長々と原因探しをし続けたある日、一人はここにチーズがない現実を受け入れ、別のチーズを探しにきます。ながらく同じところに止まっていた彼には長距離の移動はタフでした。しかし一歩踏み出した自分に自信を持ち、新しいチーズを手に入れた時を具体的に想像することで辛く、先の見えない旅程を終え、新しいチーズを見つけます。
そこには先に出発したネズミ二匹がいたそうです。
この物語から学ぶべきことは7つです。
- 環境の変化は常に起きていること
- 環境は永遠に変化するものであること
- 環境の変化に適応できなければ、絶滅してしまうこと
- 環境の変化に対応するために
- 周囲の環境の変化に気づくこと
- 変化を恐れないこと
が重要であること
- 成功した時の姿を具体的にイメージすることで成功をつかみやすくなること
人間は道がゴールに通じていることに多くの時間を割きますが、考えてはいてもどこにも移動はしていません。前でも後ろでも右でも左でも斜め右上でも斜め目左下でもどこかへ進むことに意味があることと現状を変えようと一歩を踏み出す勇気が尊いことをこの本は教えてくれています。
30分で読み終わるので是非どうぞ。
No.27「大統領の疑惑 米大統領選を揺るがせたメディア界一大スキャンダルの真実」
「大統領の疑惑 米大統領選を揺るがせたメディア界一大スキャンダルの真実」(米題はTRHUTH The Press, the President, and the Privilege of Power)を読みました。著者はメアリーメイプス、訳者は稲垣みどり、です。(敬称略)
- あらすじ
この本はアメリカのCBSニュースのジャーナリストである、メアリーメイプスが行った2004年3月のブッシュ大統領のテキサス州兵時代の入隊までの経緯、入隊後の活動、に関する調査報道の真否、報道後のメアリーメイプス、及びこの報道を行ったCBSニュースのチームの処遇について書かれています。
2003年から始まったイラク戦争中の大統領はブッシュです。彼は1972年〜1974年までにテキサス州の軍事パイロットであったことから、自分には国民のために戦う者の気持ちがわかると主張していたそう。
しかし、彼はテキサス州兵に親のコネ(金と政治力)を使って入った上、健康診断を受けなかったため、パイロットとして飛行し、テキサス周辺の警備に当たるなどの任務をこなすことは所属していた最初の数ヶ月ほどであったことがCBSのメアリーメイプスが属する調査報道チームの調べによって分かりました。1970年代当時はベトナム戦争の最中であったため、多くの若者が徴兵に伴うベトナムでの銃撃戦を避ける手段を探していました。その手段は州兵になることでした。しかし州兵は数十人と限られており、多くの応募者は州兵になることができませんでした。一方、政治力と金を持った若者はコネを使って州兵になりました。その内の一人がブッシュです。
この報道が緻密な調査によって明らかになった事実であることをメアリーメイプスは主張していますが、証拠である当時のテキサス州軍の幹部であったキリアンの文書はコピーされたものであったため、文書の内容が100パーセント本当であると言い切ることはできません。一方、調査報道において常に本物の文書が手に入ることは珍しいそうです。
メアリーメイプスと彼女のチームはブッシュの州兵入隊までの経緯、入隊後の仕事ぶりに関する報道を行った後、保守系のブログメディアからこのキリアンのメモの書体がその時代よりも後のものであることを理由に事実無根の報道であると非難を受けます。新聞社やテレビ局、雑誌もライバル会社の評判を落とし、自社の利益を拡大するためにこれに便乗しました。またホワイトハウスもこれーブッシュ大統領の評判を危険にさらす報道ーを事実に基づいた報道でないとし、公式の記録において1972年〜1974年の間にブッシュ大統領はテキサスでの勤務を行ったと主張しました。メアリーメイプスの調査では最初の数ヶ月軍務を行った後は父の選挙活動の支援などを行っていたとされています。
報道を主体的に進めていたメアリーメイプスは社会からはもちろん、職場内からも白い目で見られるようになりました。バイアコム、CBSの役員、自分の企画を受け入れ、番組で流すことを決定した上司でさえ、この報道の正当性に目を向けず、社会からの批判を抑えるために企画者である彼女に責任を追及しました。
社内調査委員会(メアリーメイプスに責任があると考えていう役員が任命した)の判断の結果、調査は誤報であったとされ、2004年に彼女は解雇されます。
- 感想
この話にとても感動しました。どこに感動したかというと
- 国民の知る権利のために事実を追求する
- 仲間、支えてくれる人への感謝する
を行っている点です。「事実」を報道するという強い使命感を持ち、自らの危険を顧みず国民の生活を左右する権限を持つ大統領について調査を行ったことは尊敬に値すべきことだと思いました。根も葉もない批判やジャーナリズムの幾度となく行われる検閲を通過していない、個人のブログ記事に似たものやライバル会社のを潰そうと「疑う」ことを忘れ、ブロガーの記事を拡散する他の大手新聞社やテレビ局、雑誌、社内からの批判を受けてもなお、「真実を報道する」という信念を曲げず、自らの辛い過去と向き合い、この本を執筆したその魂に感動しました。また同じチームで働き、情報提供者へのインタビューを行った、レポーターであるダン・ラザーとの友情は心を打つものでした。40年間、CBSに勤めた彼もこの報道のストーリー、証拠の信憑性を信じており、メアリーメイブスが社会的に批判された時にも、社内から総スカンを食らった時にも、ジャーナリストとしての誇りを守ろうとする彼女を励まし続けました。そんな彼との共闘関係と彼への感謝が本書内のいたるところにあります。苦しい状況でも互いを気遣い、奮い立たせる関係性に仲間の大切さに再確認しました。
私企業として公共性が失われつつジャーナリズム、いつでも平等とは限らない社会、自己保身のために裏切る上司、完璧を求めつつも常に完璧でいられない葛藤、信念のために走り続ける勇気、人との出会いの大切さ、を感じさせてくれる一冊です。ジャーナリストを目指す方はもちろんですが、一人でも多くの方にオススメしたい本です。信念と仲間を守る彼女の生き方に衝撃を受けるから。