No.13 レトリック感覚
レトリック感覚 (佐藤信夫著、1992年、講談社学術文庫発行)を読みました。
この本は事物の表現の仕方について書かれています。直喩、隠喩、換喩、提喩、誇張法、平叙法、緩叙法を取り上げながらもののたとえや否定による事柄の強調の仕方について考察しています。
私が考える、この本のハイライトは論理性にあります。
特に隠喩、換喩、提喩の違いについての説明は印象的でした。具体的な例をとりあげ、隠喩は物事の類似性に基づくものであること、換喩は物事の隣接性に基づくものであること、提喩は種の比較に基づいた表現であることを証明しました。
もう一つ印象に残った部分はP. 315です。
このページは引用に基づいて、緩叙法とは何かを説明しています。
引用は中原中也の「ありし日の歌」「北の海」からの引用です。
海にいるのは、あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、あれは、浪ばかり
緩叙法とは端的に言えば、ある事柄を否定することでそれを強調する表現方法です。
ここでは海にいるはずのない、人魚の存在を否定することで、人魚の存在を私たちに意識させます。一方、人魚は絶対にいないので、海に必ずある、波の存在を強調しています。この人魚と波は存在の必然性について接点を持っています。必然的にないものを否定することで、必然的にあるものの強調を行っています。人魚と浪というと、海に関わる単語だなとはすぐに気が付きますが、存在の必然性という共通点は全く思いつかなかったので、とても印象に残りました。
比喩や表現技法問った観点から言語の捉え方まで幅広く考えることができる本です。
きっと新しい発見があると思います。