No.15 イスラーム文化〜その根底にあるもの〜
イスラーム文化〜その根底にあるもの〜 井筒俊彦著 を読みました。この本を読んだ理由の一つはイスラームはなぜ過激派があるのか、についてヒントが得られるのではないかと考えたからです。
結果、イスラームという宗教が現世を汚れた世界であるという見方があることが原因なのではないかと考えました。
イスラームには大きく分けて三つの派閥があります。一つはスンニー派、もう一つはシーア派、最後にスーフィズムです。この中で過激派の傾向が強いのはシーア派とスーフィズムの二つです。
この二つの宗派は現世を外面的世界ととらえ、外面的世界を構成する内面的世界があると考えます。この内面的世界は神の意志が宿る世界であり、この世界に結びついていない現世は汚れた世界であるととらえます。
この現世に対する否定的な傾向が世直しのため運動に結びついているのかなと思いました。とはいえイスラーム教は、キリスト教やユダヤ教にも理解を示してきた歴史があります。キリスト教やユダヤ教を進行している人たちも税金を納めれば、イスラームコミュニティの中で暮らすことが認められていたのです。そこでなぜキリスト教や欧米の文化は憎むべき対象となってしまったのかという疑問が生まれました。
概要的にイスラームについて説明があるので、イスラームに興味がある方はぜひお読みください〜
No.14 「友情」
友情 武者小路実篤著を読みました。
主人公の野島とその親友大宮、と杉子の三角関係を描いた物語です。野島は自尊心が強く、盲目的に杉子を愛しています。大宮は野島のことを尊敬しており、杉子を愛する野島をアシストするため様々な行動をとります。しかし杉子は大宮を一目見た時から大宮のことが気になっていて。。。
という感じの展開です。なんとなく、どんな風になったかはわかるとおもいます。
友との固い友情を裏切ることになってしまった大宮ですが、友情のためにできる限りのことは尽くしました。その結果、野島を悲しませる、杉子との交際を選択したにせよ、そこに後悔はないことを語っています。その自尊真の強さそのままに、杉子を一直線に愛していた野島は杉子を失った悲しさに打ちひしがれたとはいえ、その悲しさを文学を追求するパワーに変えていくことを大宮への返信の手紙につづっています。
自分の孤独に神の存在を見た野島と、杉子という天使を手に入れた大宮。この二人がその境地に達したのは、二人が築いた友情の深さ故でしょう。
なんとなく、古典というと読みにくいような気がしてしまいますが、文体も現代語と同じですし、恋愛ものなので非常に読みやすいです。
No.13 レトリック感覚
レトリック感覚 (佐藤信夫著、1992年、講談社学術文庫発行)を読みました。
この本は事物の表現の仕方について書かれています。直喩、隠喩、換喩、提喩、誇張法、平叙法、緩叙法を取り上げながらもののたとえや否定による事柄の強調の仕方について考察しています。
私が考える、この本のハイライトは論理性にあります。
特に隠喩、換喩、提喩の違いについての説明は印象的でした。具体的な例をとりあげ、隠喩は物事の類似性に基づくものであること、換喩は物事の隣接性に基づくものであること、提喩は種の比較に基づいた表現であることを証明しました。
もう一つ印象に残った部分はP. 315です。
このページは引用に基づいて、緩叙法とは何かを説明しています。
引用は中原中也の「ありし日の歌」「北の海」からの引用です。
海にいるのは、あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、あれは、浪ばかり
緩叙法とは端的に言えば、ある事柄を否定することでそれを強調する表現方法です。
ここでは海にいるはずのない、人魚の存在を否定することで、人魚の存在を私たちに意識させます。一方、人魚は絶対にいないので、海に必ずある、波の存在を強調しています。この人魚と波は存在の必然性について接点を持っています。必然的にないものを否定することで、必然的にあるものの強調を行っています。人魚と浪というと、海に関わる単語だなとはすぐに気が付きますが、存在の必然性という共通点は全く思いつかなかったので、とても印象に残りました。
比喩や表現技法問った観点から言語の捉え方まで幅広く考えることができる本です。
きっと新しい発見があると思います。
No12 「フォークの歯はなぜ4本になったのか」
「フォークの歯はなぜ4本になったのか」 実用品の進化論 1995年発行
the evolution of useful things 、Henry Petroski著の日本語訳です。
※ちなみにこの記事を見て、次はどの本を読もうかなとか決めてます。
大学教師が新入生に薦める100冊: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
この本では「形は機能に従う」のではなく、「形は失敗に従う」と主張しています。
多くのもののデザインの基本はあるものの使いにくさの改善を目的にしています。
例えば、フォークの歯が4本になった理由はナイフを使って肉を食べる時に、4本が最も肉を固定しやすいからです。当初はフォークの歯は2本でしたが、ナイフを縦に動かしながら切る時に、肉の位置がずれてしまいます。そしてフォークの歯の太さを調節したり、本数を変えながら最も切りやすい形を追求した結果、現在のようなフォークの形になったのです。ちなみにフォークの歯が曲がっている理由はまっすぐだと、肉を口に入れる時に肉がこぼれ落ちてしまうからです。
もちろん、ある事柄を達成するための方法は一つでありません。例えば、あるスプーンには淵にギザギザが付いています。きっと肉を切る時に使われていたのでしょう。
このようなものの進化の過程を日用品、例えばファスナーやビールの缶、マクドナルドの包み紙などを取り上げながら説明しています。ナイフやフォークのように食べ物を食べるという目的が強くその形に反映されているものもあります。一方でかっこいいものかどうか、環境に配慮したものか、伝統的なルールを守っているものか、など「食べる」という目的に関係のない事柄が形に強く反映されているものもあります。一方、このようなことがらは社会規範を守るとか、デザインを良くすることで売り上げを伸ばすなど「食べる」という目的以外の達成のために行われています。
何かを達成するために道具が作られ、それをいかに達成するかは様々であり、目的に関係のない事柄が形に影響を及ぼすこともあります。そのため同じ目的を達成するための様々な道具が生まれてきました。
スプーン一つとってもその違いを比べてみれば、そのスプーンが何を目的に作られているのか、微妙な違いに気づけるのかもしれません。
もしお読みになった方がいましたら是非コメントしてください〜
No 「ソロモンの犬」
「ソロモンの犬」 道尾秀介
大学生の秋内の先生の息子の死の謎を究明するミステリー。彼の仲間の京也、智佳、ひろ子との関係性も描きながら、大学で動物について研究をしている間宮と事件の謎に迫ります。
一つ一つの推理に論理性があり、特に犬の性質である負の強化を論拠にした推論は読みながら爽快感を感じました。とはいえ佳への恋心が物語の節々ににじみ出ており、ミステリーにはいらねえだろ!と突っ込みを入れていました。(何様)
ただあとがきを読むとその理由もわかりました。曰く、道尾さんの作風は人間の弱さを認める優しさがあると。この事件の犯人は高校教師をやめ、妻からは逃げられ、息子が死ぬ原因にもなってしまうような人なのですが、他の登場人物も何かしらの弱さを抱えています。このような構成を通して誰しもをフラットに受け入れることを試みていると指摘されていました。
恋心と謎解きで二重のドキドキを味わいたい方は是非。
No.11「日本人の経済観念」〜 歴史に見る異端と普遍
「日本人の経済観念」歴史に見る異端と普遍 武田晴人著を読みました。
この本は日本人は勤勉だというステレオタイプへの一つの反抗を歴史的な事実に基づいて主張しています。
例えば、イギリス人が日本人の仕事の乱雑さについて指摘した明治初期の文献も残っています。またお客様と信頼関係を築きものを売買していた商人や、お客様から依頼されてものを作っていた職人は勤勉に働いているわけではなかったようです。
このころのものの買い方は客の前に全ての商品が陳列されているわけではなく、店員に自分の欲しいものを伝え、店員がそれに近いものを倉庫から持ってくるというものでした。つまり、その人のところに行けば自分の欲しいものを持ってきてくれるという信頼関係で商売が成り立っていたわけです。一方、全ての商品が見えているわけではありませんから、店員、つまり商人の側からすれば価格に見合うものを商人が選んで持っていくことができます。ここに商人のお金の稼ぎドコロがあります。
職人もお客様から依頼されたものを期日までに作ればお金がもらえたので、働く時間も作るものも職人の好みで決めることができました。このような傾向は私たちが想像する勤勉とは違ったものであると思います。
信頼関係に基づいた商売は戦後の企業の経済活動にも共通して見られる性質です。
この信頼関係とは企業同士が自分たちの利益だけを主張するのではなく、違いの利益を実現するために行動するということです。だから企業がその利益を話し合うためにカルテルや談合を行うことは極めて合理的なことであったのです。
このように日本の経済の歴史には信頼関係に基づいた取引があり、互いの利益の尊重は日本人にサボる余裕を与えていたことがわかります。
あまりうまく伝えることができていませんが、詳しくは是非ご覧になって確認してください!
No.10「行動経済学 経済は感情で動いている」
行動経済学 経済は感情で動いている
友野 典男
この本は合理的な経済人を仮定する、今の標準経済学の問題点を指摘し、人々の経済活動を説明する際に感情を考慮する、行動経済学の有効性を主張しています。
※経済人とは、自分の利益だけを追求する人です。
方法としては直感や社会的状況、時間、リスクなどの条件を設定して行った実験例を取り上げて標準経済学の理論上での行動仮説と実際の行動における矛盾を指摘し、人の感情の影響を証明しています。
中でも最も印象に残っているのは社会的状況による、選好の変化についての説明です。
寄付に関する実験の例があります。この実験では二人のペアを組んで、どちら一方が受給人、どとらか一方が供給人となります。これを一度ペアになった人とはならないように複数回行う実験です。
このゲームを何回か行ったところ、供給者の立場になった時に寄付を行った人ほど、受給者の立場になった時に寄付を多くもらえることがわかりました。つまり、親切な人は自分が親切にしていない人からも親切にしてもらえることがわかったのです。
他にも実生活でなんとなく感じている論理が証明される実験例があります。
感情を論理的に考える面白い本だと思うので、普段は直感的に動くけど論理的な話は嫌いだなという人も是非読んでみてください。自分の行動が論理的に正しいことを証明できるかもしれませんよ。